今週の金価格はほぼ横ばいだった。米国とイランの停戦協議が決裂し、原油相場が乱高下したにもかかわらずである。その理由は、最大手トレーダーのポジション動向を示す週間レポートに隠れている。
このレポートでは、金価格が動かない一方で、静かなポジションの引き継ぎが見られる。大口投機筋は金から撤退し、商業ヘッジャーが買いに回るという、相場変動前にしばしば現れる構図である。
米先物規制当局は毎週、「投資家の建玉明細(COT)」と呼ばれるレポートを発表しており、金先物の最大手トレーダーのポジション状況を示す。トレーダーは2つのグループに分かれる。商業筋は生産者やヘッジャーであり、一般にインフォームド/スマートマネーとされる。一方、非商業筋はゴールドトレンドを追う大口投機家である。
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最新発表では、両者が逆方向に動いている。投機筋はロングを1万0314枚減らし、商業筋はロングを5121枚増やすとともに、ショートも742枚減らした。
これが重要なシグナルである。群衆が売り、ヘッジャーが買っているとき、金先物のポジションは解消され、インフォームドサイドが静かに蓄積を進めている状況。
同時に、建玉総数も2万5836枚減少した。これは新たな売りが膨らんだのではなく、古いポジションが整理されたことを意味する。ヘッジャーの買いが進む中での建玉整理は、天井ではなく下値圏の形成を示唆する場合が多い。
これが必ずしも下値を保証するものではない。それでも、ポジションデータは現状水準でスマートマネーが価値を見出し、投機筋が手を引いている様子を示唆する。こうした初期の乖離は価格転換の前兆となる傾向がある。
問題は、なぜニュースの見出しと逆行するこの動きが起きているかという点にある。
本来であれば、この状況は金価格を押し上げる材料だった。イランは6月1日、イスラエルによるレバノン攻撃を受け、米国との停戦協議を打ち切り、域内では攻撃が継続している。
原油は典型的な戦時資産の動きを見せた。5月には停戦期待からブレント原油が約19%急落したが、協議決裂やホルムズ海峡封鎖懸念で4%超反発。ただし、週単位ではなお下落基調で、こうした展開は本来なら貴金属の上昇要因になるはずだった。
金はほぼ反応しなかった。XAU/USDは当日で1%未満、週間では0.46%の上昇にとどまった。これに対し、原油は1週間で6.5%下落。クラシックな金買い・安全資産取引は、和平合意崩壊にもほぼ動かなかった。
この乖離こそが注目点である。原油はいまだイラン情勢を反映するが、金は静観。ポジションデータが理由を説明する。投機資金が撤退し、短期資金はもはや金紛争材料に踊らされない。一方、オプション市場も別の側面から同様の慎重姿勢を示す。
SPDRゴールドETFのオプション動向も、慎重だが弱気というわけではない姿勢を示す。プット・コールレシオは、弱気ポジションが強気コールに対しどれだけ取引されたかを測るものであり、上昇はヘッジ需要の高まりを表す。
ゴールドのプット・コール出来高比率は0.26から0.64へと5月末にかけて2倍以上に上昇。停戦協議が不透明になる中でプット買いが増えた。
一方、建玉ベースのレシオは0.58から0.55に低下し、1を大きく下回る水準を維持している。積み上がったポジションは強気のコールが中心で、日次のヘッジが増えても主要な資金は依然として強気に傾いている。
総合的にみて、市場には「ドライパウダー」の状態がうかがえる。コマーシャルヘッジャーは先物を買い、オプション市場も依然として強気な姿勢を維持している。トレンドフォロワーのみが静観している状況。
価格展望については、APMEXのブレット・エリオットディレクターが、金価格は6月に4300ドルから4725ドルの範囲が有力と指摘。戦争下では金が石油と連動するリスク資産のように取引されてきたと述べた。
現時点で金価格のカギとなるのは、投機筋が市場に戻るか否か。
停戦が維持され、石油や金利への圧力が低下すれば上昇傾向が続き、投機筋を呼び戻す可能性。一方、新たな戦火拡大で石油や金利が再び上昇すれば、金価格は上値を抑えられる展開。


